2007年4月10日      

セメントを金属に変身させることに成功

〜 ナノの構造を利用した現代版錬金術 〜

研究の成果

 C12A7は、図2のようなナノサイズのカゴが、お互いに結びついて結晶をつくっており、その中に酸素イオン(O2-)が入っている。この酸素イオンが、ふわっと入っており、摂氏700度以上になると、結晶の中をよく動き回ることに着目した。そして、この動きまわる酸素イオンを捕まえ安定な結合をつくるが、C12A7のカゴとは反応しない(反応するとカゴが壊れてしまう)、金属チタンと一緒にガラス管の中に封入して、摂氏1100度で加熱することで、カゴの中の酸素イオンをほぼ100%電子で置き換えることが可能になった。その結果、絶縁体から半導体、そして金属にまで変えることに成功した(図3参照)。


図2.C12A7の結晶構造。ナノのカゴ(O2-入りとなし)から構成されている。立方体が単位格子(繰り返しの最小単位)。
単位格子には12個のカゴがあり、そのうちの2個のみに酸素イオン(赤丸)が入っている。




図3.C12A7の電子ドープによる金属化。


 金属になったことが、以下の2つのことで確認された。
   (a) 温度が下がると電気抵抗が小さくなる(半導体は逆)
   (b) 磁性をもった不純物を少量加えると、電気抵抗が温度とともに単調に変化せず、ある温度で最低値を
      とるという非磁性金属に共通に見られる「近藤効果」が、明瞭に観察される。

 室温での電気抵抗は、6x10-4Ωcmで金属マンガン(2x10-4Ωcm)と同程度で黒鉛(1.3x10-3Ωcm)より一桁低い。薄膜(厚み100ナノメートル)にすると、肉眼に感じる可視の領域の光は70%以上透過するので、金属や黒鉛のように不透明ではなく、向こうが透けてみえる。

 シリコンなどの半導体が金属に変わるときは、電子の数は増えるが、電子一個あたりの動きやすさ(移動度)は減少する。しかしながら今回の研究において、C12A7の場合は、これとは逆で、金属化すると、半導体の状態よりも数十倍も大きくなることがわかった(図4左参照)。この原因を調べるため、大型放射光施設(SPring-8)の粉末結晶構造解析ビームライン(BL02B2)の高輝度放射光を用いて測定した回折データを、マキシマムエントロピー法(MEM)/リートベルト解析と呼ばれる、電子密度イメージングと粉末回折パターンフィッティングとを組み合わせた方法で解析した。

 ナノのカゴの中に酸素イオンが入っている絶縁体の状態では、カゴの形が歪んでいるが、酸素イオンを電子で置き換えていくと、どんどんその歪みがなくなっていき、ある濃度まで電子が増える(酸素イオンが減る)と、一気に全部のカゴの形が綺麗な、歪んでいない状態に至る。このとき、電子は急によく動けるようになり、その結果として、半導体が金属に変わることがわかった(図4右参照)。今回、SPring-8の高輝度X線ビームを用いて測定した高精度回折データを使って解析したことが、このような金属状態と絶縁体状態の精密な構造変化の解明に結びついた。


図4.C12A7の金属化の特異性とその起源。
(左)通常の半導体と全く逆で勤続になると電子が急に動きやすくなる。(右)カゴの中の酸素イオンが電子に置き換わったときの変化


トップ研究の背景研究の成果今後の発展


最近の研究から