腰痛

この歳になって生まれて初めて腰痛に悩んでいる。

 母親が夜中に家の中で転んだらしく、脚を痛めて歩けなくなった。赤羽一番街の病院へ介護タクシーに載せて連れて行き、整形外科の診察を受けたが骨に異状はないらしい。

 しかし、歩けないのか歩く気がないのか知らないが、一時、まったく寝たきりになってしまった。しかたがないので、私が抱え上げて車椅子に移し、トイレに連れていったりしているうちに腰に鈍い痛みを感じるようになった。体重30キロしかない母親でも、こちらが前かがみになった姿勢で首っ玉にかじりつかれ、ぶら下がられたら腰を痛める。

 鈍痛を感じるようになって三日目の朝に、突然、私は寝床から起きられなくなっていた。私は仕事部屋の床に蒲団を敷いて寝ている。起き上がろうとすると背骨に激痛が走る。いったん痛みの発作が始まると、腹筋と背筋が勝手に痙攣し、それがまた激痛を呼ぶという悪循環に陥ってしまうのだ。私はあまりの痛みに絶叫したが、今の家は遮音が行き届いているせいか、誰も助けに来てくれない。

 私はてっきり背骨をやられたと思った。這う這うの態で起き上がり、また赤羽一番街の例の病院へ出かけた。タクシーで行くと乗り降りの際に身体を屈めなければならない。これは思うだに辛そうなので、一番楽な直立姿勢をとり歩いて行った。レントゲンを撮るときは、背中を丸めたり、反り返ったりの姿勢を命じられた。それって一番痛いんですが・・・ヒーッ。

 幸いなことに、骨には異状が無いそうだ。お医者さんはつまらなそうにぎっくり腰です、という。正式の病名は教えてもらえなかった。こうして腰痛との付き合いが突然はじまった。

 横になる時と起き上がる時が一番苦しいが、横になる時には比較的痛みの少ない身体の変形経路があることを知った。この経路は脚を伸ばしたり曲げたり、身体の角度を90度に横転させたりと、結構複雑な儀式になる。そこで起き上がる時にも、その経路の時間反転過程をたどればいいんじゃないかと気づいた。試してみたが、やはり痛い。それで「起きる」と「寝る」は準静的可逆過程ではないことが分かった。重力場中での変形だから当然か?

 随分前に書いた駄文「明るい病気自慢」中で、若い人たちに腰痛持ちが多いことに触れ、腹筋の鍛え方が問題だと述べたが、今は謝罪したい。申し訳ありませんでした。

                                  (Dec. 2018)

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