悪い夢

 この夏、いつまでも覚めない、いやな夢を見続けているような気がする。「STAP騒動」のせいだ。とうとう自殺者まで出て、いやな夢は正真正銘の悪夢に変わった。

 理研の首脳部がいったい何を考えているのか、一向に伝わってこないのが不気味なのだ。大きな組織が無言のまま、「捏造論文の検証実験」という前代未聞の行為を始めた。時間稼ぎだという声もあるが、何のための時間稼ぎなのか?理研が何の決定も下さないまま時間経過するうちに、不正行為の痕跡が次々に明らかになり、中心人物の一人が自殺した。

 7月27日放送のNHKのスペシャル番組「STAP細胞 不正の深層」を見て少しわかったことがある(私が見たのは再放送)。番組の中で、神戸市ポートアイランドで進められている「医療産業都市構想」の話が紹介された。これは産学連携で進められており、現在、創薬・再生医療を中心とする企業誘致の真っ最中である。再生医療は、国の産業経済政策の目玉でもあるという。その中心にいるのが理研CDB 具体的には亡くなった笹井氏で、8階建ての拠点ビル「融合連携イノベーション棟」別名「笹井ビル」が38億円の予算で建設中(用地は神戸市が無償で提供)ということだ。

 これだけの大事業となれば、どれほどの金が動き、どれほどの利権と政治が絡んでくるか想像に難くない。実際、閣内にいる科学には素人の政治家まで口を挟んできた。理研は「STAP細胞」の研究不正が明らかになっても、動かなかったのではなくて、動けなかったのだろう。要するに金縛り状態である。

 論文執筆に関わる不正行為だけでなく、「STAP細胞」の研究そのものが虚構であると疑うに足る物的証拠が揃っているにも関わらず、再現実験をさせられるというのは、担当者にとっては罰ゲームとしても悲惨すぎる。もうじき中間報告が出されるようだが、私には嫌な予感がある。まさか次のような報告書が出るのではあるまいな?
「万能性を有する幹細胞の作成にはまだ成功していないが、弱酸に浸すという刺激により、細胞に有意の変異が認められた。なお慎重に研究を継続することが望ましい」
どこにも嘘は言ってない。これでウヤムヤ、軟着陸成功!

 私は科学的真実に勝るものはないと信じている人間の一人である。どんなに大金が動こうと、どんなに大きな政治の力が働こうと、科学的真実は変えることができない。また、その矛盾の狭間で人ひとりの命が失われてよいはずがない。野依理事長は、直ちに「検証実験」なるものを中止させ、不正に関わった人物と管理責任者を処断し、自らも辞任していただきたいと思う。それしかこの国の科学研究を正気に戻す道はない。それがノーベル賞の権威の持つ力である。

 このままでは、また人死にが出るかもしれない。悪夢から覚めるには強い意志がいるのだ。


                                        (Aug. 2014)

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