うそ

 感動的実話と思ったら本当は陰の代作者がいた「現代のベートーベン事件」、無実の4人が5人逮捕、もとへ誤認逮捕された「パソコン遠隔操作事件」、マウスの細胞が、あ〜ら不思議、別系統のマウスに初期化されていた「小保方STAP事件」・・・。もう嘘はたくさんだと思っていたら朝日新聞の超弩級の嘘が発覚、というよりしぶしぶ32年前の記事の訂正を行って大嘘が確定した。

 だんだん嘘のスケールが大きくなり、直接間接の被害者の数も大きくなる。いわゆる「従軍慰安婦問題」と福島原発事故の「吉田調書問題」では朝日新聞社の従業員数千名(?)を除くすべての日本国民が被害者である。その被害額を慰謝料に換算すると、私の試算では約10兆円。いや、とてもお金には換算できない被害を、国民すべてが受けており、将来にわたって受け続けるのである。

 なぜこの時代の日本で「朝日新聞事件」のようなことが起きえたのか?私なりに考えたりインターネット上に現れるブログや雑誌の記事などを読んでみた。中にはまだ頓珍漢なことを言っているブロガーもいるが、大きな観点から的確に事態を要約しているのはジャーナリスト石井孝明氏のブログ
「死もまた社会奉仕--「朝日新聞的なもの」の葬送を喜ぶ」
http://blogos.com/article/94313/
だと思う。

 敗戦後のある時期まで、日本共産党は暴力革命によって日本に共産主義政権を樹立することを目指していた。これはソ連と中国からの指示に従ったものである。武装蜂起に備えて農村に「解放区」を造るための「山村工作隊」を潜入させていたのもこの頃である。この武装闘争方針は1955年の六全教での自己批判により否定され、以後、党は「大衆平和路線」に転換することになるが、武装闘争に固執する分派が生まれ、のちの新左翼と赤軍派につながって行く。

 この分派の思想の特徴の一つは「目的は手段を正当化する」ということである。つまり、正しい目的のためなら不正な手段でも許されるという考え方だ。

 では「正しい目的」は誰が決めるのか?それは思想的エリートである自分たちであり、自分たちが大衆の進むべき正しい道を指し示すのだ。私の学生時代(50年前!)には大学でこれに近い議論が日常的に行われていたので、書いていて少し懐かしくもある。私はバカバカしいと思っていたが・・・。

 この思想は連合赤軍事件で最後のあだ花を咲かせ、以後、日本国内では社会の通念からは消滅したように見えた。しかし、実はそれが連綿と受け継がれてきた世界があったのだ。それが朝日新聞を代表とする紙媒体のメディア 要するに新聞社である。今回、あからさまになった朝日新聞の姿勢は

1、 「正義」は「事実」に優先する。すなわち、まず先に「正義」があって、報道ではその「正義」に照らして「事実」を調合する。時には事実を捻じ曲げることも許される。
2、 では何が「正義」であるか?それは「国家としての日本」を徹底的に弱体化することであり、それが朝日新聞社の社是である。

の2点に集約できることから、それは明らかだろう。

 新聞がこの思想をどのように実践しているか、手元に朝日新聞が無いので、東京新聞からアットランダムに具体例を挙げてみよう。2014年8月9日長崎原爆投下の日の夕刊の見出しを列挙する。

第一面:憲法踏みにじる暴挙 長崎、集団自衛権に怒り
     市長「平和の原点揺らぐ」
     若者や子ども脅かすな/ 海外で戦う国 いけない
第二面:ニュース池上塾「憲法解釈を変えアメリカを守る」
第四面:首相また「コピペ」 長崎平和式典スピーチ
     「被爆者軽視」変えず

 断っておくが、これは社説欄にあるのではない。第一面と第四面はニュース記事、第二面は子供向けの教育欄である。要するに特定政党の機関紙だと思えばいいだろう。東京新聞は文芸欄が面白いので、我が家では昔から取っていた。その頃は、どちらかと言えば保守的なスタンスの新聞だったと思う。最近、東京に戻り、東京新聞を読んでみてあまりの変わりように驚いた。いったい、社内で何があったのだろうかと逆に興味がわく。

 実はこの新聞は今年九十歳になった母が取っている。「この新聞、もう止めましょう」と私が言っても、すでに習慣となってしまった母には簡単にはやめられないようだ。それで分かったのだが、公称600万部とか700万部とかの朝日新聞の購読者の大半は、私の母親のような惰性で取り続けている老人たちなのではなかろうか。

 私は別に朝日新聞や東京新聞が暴力革命を目指しているなんて言っているわけではない。ただ、その思考のパターンが50年前の経験に照らして、あまりに時代遅れで見え見えだと言っているのだ。

 朝日新聞その他の新聞メディアは、自分たちは思想的エリートとして大衆の考えを方向付ける影響力をいまだに保持していると考えている(註)。そして情報をめぐる環境が激変していることに気づかない。

 ある年齢以下の層は、特定の新聞ではなくインターネットを通して多様なニュースソースを読み比べている。新聞の固定購読数も激減しているだろう。今回の訂正記事と、その批判者に対する時代錯誤的な朝日新聞の対応が、このメディアが既に化石に成りおおせていることを図らずも明らかにしてくれた。慶賀の至りだ。


(註)たしかに5年前の「民主党政権樹立」の際は、自民党政治家の漢字の読み間違いや、ささいな失言を取り上げ、自民党長期政権に倦んだ大衆の潜在意識を巧みに操ることで、影響力を発揮した(「一度、民主党にやらせてみよう」)。これは紙媒体のマスメディアによる大衆操作という点で「安保闘争」以来の奇跡の大成功だったかもしれない。



                                        (Sept. 2014)

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