裏の裏

最近、Webで「世界最弱のオセロAI」というニュースを見た。

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1908/07/news048.html

これはベンチャー企業AVILEN社の最高技術責任者吉田拓真氏が作ったAIで、「どんなに弱い相手にでも絶対に負けてしまうオセロの指し手」を標榜するものだ。ニューラルネットワークや自分自身と戦うことで弱くなる(普通は強くなる)「強化学習」などの手法をとり入れて、ひたすら負けるソフトを目指している。実際、Web上でリリースされてから100万回プレーされて、AIの勝ちはわずか3000回(勝率0.003)だそうだ。このソフトに負けることができる人はプロ級の腕前だという。まだ勝率0でないのは修行の足りないところだな。 

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 モデルの高山沙織さんはアンドロイドである。いや間違った、アンドロイドそっくりの演技で有名な女性モデルである。

https://www.youtube.com/watch?v=xTHGQ1Gl2Xs

 人間にそっくりの表情や動作をするロボットを造ろうという研究をしている研究者がいる。彼らの遭遇した大問題は、ロボットが人間に似れば似るほど、不気味な雰囲気をまとってしまうことだ。これは「不気味の谷」とよばれる現象だ。高山さんはここを逆手にとって、「人間を真似るアンドロイド」を真似る演技で有名になった。逆転の発想。ところで上に紹介したYoutube「2042年のクリスマス」は、ある企業のCMで、高山さんがアンドロイドの役で出演しているのだが、ちょっと泣ける話になっている。

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 昔、大阪府立大学の数理工学科で学科主任をやっていた時に、大学の事務から
「女子学生専用のロッカーが設けられることになったので、数理工学科の女子学生の数を学年ごとに教えて下さい」
と連絡がきた。手元に各学年の学生名簿はあるのだが、名前を見ただけでは性別までは分からない人もいる。そこで工学部事務に電話をかけて
「性別のわかる数理工学科の学生名簿をください」
と伝えたら
「それはちょっと・・・」
と拒絶されてしまった。それで私は、性別は重要な個人情報なんだなと思った。

 これは本当にあったことで、当時は笑い話のタネにしていたのだが、今では誰も笑わない真面目な話になってしまった。

 しかし、考えてみれば日本ではトランスジェンダーなどは昔から普通にあったことで、 それをドキドキ楽しんでもいたのだ。歌舞伎の女形(おやま)やタカラヅカの男役をみればわかるだろう。手塚治虫のマンガなら「リボンの騎士」や、名作「メトロポリス」の主人公、両性具有の人造人間ミッチイ もある。

 若い方々は絶対にご存じないだろうが、昔人気のあった映画に「雪之丞変化」というのがある。戦前から戦後にかけて何度も映画化されている(私は見に行ったことはないが)。Wikiで調べてみたら「原作は昭和10年から翌年にかけて朝日新聞に掲載された三上於菟吉の時代小説」とある。粗筋は何でも長崎の大店の息子雪太郎少年が、家族を無実の罪で陥れられ失うが、成人して雪之丞という人気女形になり、長崎の仇を江戸で討つ、 というものらしい。これに謎の怪盗闇太郎や雪之丞に恋する奥女中(絵島生島事件以来のお決まり?)が絡んで波乱万丈、大人気を博したのだ。


 何でこんな話を始めたかというと、最近、Youtubeで映画「雪之丞変化」の一場面を見たからである。歴代の雪之丞役には林長二郎(長谷川一夫)、東千代の介、大川橋蔵などの美男俳優が扮したが、これは橋蔵だろうか。奥女中浪路と雪之丞の逢瀬の妖しい場面だ。

 ところでWikiには美空ひばりが主演した「雪之丞変化」もあって、傑作だという。えーと、この場合、雪之丞は女装した女形を女性が演じているというややこしいことになっていてトランスジェンダーの極みですな。

ただし、私は天才美空ひばりに唯一欠けた才能があったとすれば、それは色気だったと思っているので、ここは凄艶な美女に演じてもらいたいところだ。


                                           (Aug. 2019)

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