倒錯問答
「大家さん、いや魂消たね」
「入って来るなり薮から棒にいったい何だ?」
「何だって、あの和田某画伯の盗作ですよ」
「あれは盗作ではない」
「へっ?」
「空間、雰囲気、絵の具の盛り上げ方が違う。プロなら違いが分かる」
「やだよ、大家さんまで・・・」
「馬鹿、冗談だ」
「ああ驚いた」
「だがあの絵には使い道があるぞ」
「部録(ブログ)には間違い探しって書かれてます」
「それよりも立体視に使える。微妙に線がずれているので、オリジナルと並べて寄り目で見ると見事に立体視できるぞ」
「どうやらプロジェクターで映して模写したらしいや」
「鬼気迫るというよりコケてしまいそうな光景だな、想像するに」
「それに言ってることが支離滅裂ですね」
「真顔で嘘をついているその顔が、テレビの画面に大写しになるのは無気味だな。わしらみたいにゲラゲラ笑って見ていられる大人はいいが、青少年にとって教育上良くないな」
「あんなのがどうして文化庁ゲージツ選奨文部科学大臣賞に選ばれたんでしょう?」
「・・・(絶句)」
「何でも次は文化功労者、ゲージツ院会員、文化勲章 と続くコースなんだそうですね」
「要するに日本のこの種の世界は完全にパーだったということだ」
「賞を取り消したお役人は、盗作と見られてもやむを得ないって言ってます」
「人のカバンに手を突っ込んでいるところを現行犯逮捕されて、掏りと見られてもやむをえない、とコメントするようなもんだな。これで役人の首ひとつ飛ぶ訳でもない。誰も責任をとるやつは居らんだろう」
「人命に関係無いですからね。賞の順番待ちをしてる連中が予定が狂って困ってるという話だけど・・・」
「学者の世界も似たようなもんだ」
「大家さん、おでこに青筋が立ってますよ」
(June 2006)