ストックとフロー

 今、日本中が福島第一原発事故の成り行きを祈るような気持ちで見つめている。大津波によって電気系統が完全に破壊され、冷却水の循環が止まり、原子炉そのものと使用済み核燃料貯蔵プールが発熱して自壊が始まった。その結果、原発の敷地内が放射線(主としてガンマ線)によって満たされ始めた。現在(2011年3月21日午後3時)の放射線量は、原子炉建屋の近傍で毎時数10ミリシーベルトのオーダーのようである。この値が一桁上がったら、もう原子炉建屋に近づくことは難しく、カタストロフィの始まりとなるだろう。

 だから、原子炉周辺を冷やすことは時間との闘いだった。一昨日からの消防隊員の決死の奮闘により、何とか冷却の効果が出始め、時間的余裕が生まれた。これからどうするかは別の問題である。

 今回の事故では、地震発生と同時に核反応の制御装置が作動し、原子炉そのものは休止した。それで、今のところチェルノブイリ事故のような悲惨な結末になることは免れている。津波が原発建屋を襲って電気系統を破壊したのは、地震直後だったと思われる。だから、本当に間一髪だったのだろう。

 今回、放射線の被曝量を表わすシーベルトという単位が毎日、報道されている。今度の原発事故の最初のころ、まず言われたのが
「どこそこで何マイクロシーベルトの放射線量を観測したが、これは胸のレントゲン撮影時の4ミリシーベルトと比較してもはるかに小さいので心配しないように」
という報道だ。

 しかしこれは「間違いですらない」コメントだ。X線撮影時のように、一瞬で浴びる放射線量と、環境から連続的に浴びる放射線量では、そのままでは比較のしようがない。1時間に1リットルの水が漏れている水道の蛇口から出る水の量と、ペットボトル入りの1リットルの水の量とを比べて「どちらが多いか?」と言っているようなものだ。ストックとフローの混同である。

 さすがに、誰かに指摘されたのか、今はきちんと「毎時何シーベルト」と言うようになった。もし意図的に混同させていたのなら、犯罪的である。これ以外にも、実はいろいろとおかしな報道が多い。「専門家」の話は鵜呑みにしないで、常識で検証し判断したほうがよいだろう。

                                      (March 2011)

 

目次に戻る