ロボット

 近頃、街にロボットの数が増えた。彼等はコンビニエンス・ストアや、ファストフードのチェーン店や、ビデオのレンタルショップのレジにならんでいる。こういった店では、揃いの制服を身に着けた少年型ロボットや少女型ロボットが、声を張り上げて、インプットされた決まり文句を叫んでいる。
「いらっしゃい
せ」
「お持ち帰りですか?店内でお召し上がりですか?」
「しばらくお待ち下さい
せ」
「○○円
からお預かりいたしす」
(太字のところにアクセント)
動作も完全に機械的調整がなされている。客の方が、オドオドとうつむいたり、所在なげに店内を見回したりしている。

 これらのチェーン店では、商品の品質と価格だけでなく、サービスをも徹底的に均一化し、マニュアル化をはかることにより、巨大産業に成長した。サービスをマニュアル化することで、労働力の量と一定の質の確保に成功したのである。その一環がすなわち、アルバイト店員のロボット化である。彼等は、まず客とのあいだの人間的交流を徹底的に排除するように教え込まれるに違いない。私は、こういう店に入ると、レジのこちら側と向こう側との間に、透明な壁が築かれているのを感じる。

 藤本義一氏が、しばらく前の新聞のコラムに書いていた話を思い出す。藤本氏は、あるとき、出身した高等学校の野球部を訪ねることがあった。母校の後輩達に差し入れしてやろうと、かの有名なハンバーガー・チェーン店に立ち寄り、ハンバーガー50個を注文した。店員の女の子いわく
「お持ち帰りですか?店内でお召し上がりですか?」

 藤本氏は、店員の顔をまじまじと見つめざるをえなかったということだが、これは、50個のハンバーガーを店内で食べる客がいるはずがない、したがって、この場合、この質問はスキップしてよい、ということをプログラムにインプットしておかなかった経営者が悪いのである。ロボットは正確に作動したのだ。

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