量子力学の奇妙さ その3(未完)
quantum eraser(量子消しゴム)の話をする前に、「その1」でちょっと触れた特殊相対論と量子力学の矛盾の話について訂正をしておきたい。復習すると、量子力学では粒子の運動は波動方程式に従うので、局在した状態から出発しても、束縛が解除されて自由に運動できるようになった瞬間に、無限の遠方まで波の裾が広がり、光速より速く信号が伝わる確率が生じるだろう。これは特殊相対性理論と矛盾するのではないか?という話だった。ちなみに光より速く伝わる信号はない、というドグマをEinstein
causalityと呼ぶこともある。「その1」では、これは非相対論的なシュレーディンガー方程式で考えるからいけないので、ディラック方程式を用いれば即座に解決するはずだ、と予想した。
その後わかったことだが、どうやらそれほど簡単じゃなさそうだ。この問題は、もう理論研究がかなりなされていて(当然だ!)結論は「どうもよく分からない」ということのようだ。最初にこの問題を考察したのは
G.C.Hegerfeldt, Remarks on causality and particle localization, Phys. Rev.
D 10, 3320 (1974)
らしい。Hegerfeldtはその後も何度かこの話題を取り上げていて、
G. C. Hegerfeldt, Violation of Causality in Relativistic
Quantum Theory? Phys. Rev. Lett. 54, 2395 (1985),
G. C. Hegerfeldt, Instantaneous spreading and Einstein causality in quantum
theory, Ann. Phys. 7, 716 (1998)
もある。要するに、空間的に局在した初期状態から出発して、それ以後の任意の時刻に、ある任意の領域で粒子を見出す確率が厳密にゼロだとすると矛盾が生じるということを、非常に一般的な議論により示している。
量子力学では観測量は確率量なのだが、百万回同じ実験を繰り返したら1回ぐらいは光速を越える粒子の伝播が見つかってもよろしい、ということなのか?少し前にあったニュートリノの超光速飛行の騒ぎを思い出しますな。
この問題が、今はどういうかたちで決着しているのか、私は勉強不足で知らない。どなたか調べてみてはいかがだろうか?
(この稿 未完)
(Sept. 2013)