大きすぎる

私は子供のころ、風邪をひくとよく高熱を出して魘(うな)され、ときには引きつけを起こしたりした。その時、決まって「見える」ものがあった。目の前に何か巨大なものが立ちふさがっている光景である。いや光景といってよいのかどうかも分からない不安な「何ものか」の存在である。かなりの年齢になるまで、その巨大な何かは、ときどき眠っている私の前に現れた。もう引きつけを起こすことはなくなったが。

 10月13日から20日まで、私は国際会議ISUILS2018に出席するためにハンガリーを訪れた。会議が行われたのはブダペストに近いヴィシェグラードという町である。ヴィシェグラードはドナウ川が直角に曲がるいわゆる「ドナウベント」の岸辺にある古い城塞都市である。
 会議の後半に、そのドナウベントの隣の町エステルゴムへの遠出が組まれていた。エステルゴムは、ハンガリーとスロバキアとの国境沿いにあって、ハンガリーカトリックの総本山となっている大聖堂で有名な小さな町である。

 バスを降りて、小高い丘の上にある大聖堂に向かって歩いていくと、その大きさに息を呑んだ。大理石の太い円柱が林立して巨大な緑色のドームを支えている。中に入ると正面の祭壇に聖母マリアの絵が掲げられている。パンフレットには「一枚のキャンバスに描かれた絵としては世界最大」と書かれているが、ドーム自身があまりに大きいのでそうは感じられない。私は圧迫を感じて早々に外へ出た。何度振り返って見ても、たしかに巨大で立派ではあるが、美しいとは思えない。

 その後、バスでドナウ川にかかる橋を渡り、国境の向こう側スロバキアまで移動する。下にある写真はドナウ川の対岸から見た大聖堂である。下の民家と比べてみれば、その大きさがわかるだろう。大きすぎて風景の中で妙にバランスを欠いている。私はエステルゴムの住民は、夜毎に何か得体のしれないものに魘されているのではないかと想像をめぐらせた。

   エステルゴムの大聖堂

 

 

 帰国して十日後の10月30日から11月1日まで、今度は淡路島に出かけた。淡路島南端の福良という町で開催された研究会に出るためである。福良は鳴門海峡に面していて渦潮で有名。

 研究会の解散後、Oさんの車に乗せて頂き、近くの「おのころじま神社」に行った。ここはイザナギノミコトとイザナミノミコトが天の沼鉾をもって海原をかき回し、最初に国土を作ったその場所らしい。これは壮大な話で結構だが、ここにもまた巨大なものがあった。

 これは日本三大鳥居の一つなのだそうだ(コンクリート造りだけど)。その大きさたるや下に立っている人物と比較して頂きたい。周辺の住民の皆さんの神経は大丈夫だろうか?怖い夢を見たりはしないだろうか?私は結局、このような周囲の景観とアンバランスに巨大な建造物が苦手なのだ。

   おのころじまの大鳥居

 旅行から帰って以後、眠ると例の得体の知れない大きな「もの」が目の前に見えるようになった。こじらせた時差ボケと旅の疲れもあるかも知れない。

 

                                  (Nov. 2018)

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