見てはいけないもの

 公衆の面前で、突然、醜態が演じられてしまうことがある。あまりよい例えではないが、自他ともに認める社内一の美人が、大勢の人の前で派手に転倒してしまうとか、切れ者と評判の男が、会議の席で無知をさらけ出してしまうとか、記者会見で社長がオイオイ泣き出してしまうとかいったようなことだ。その場は気まずい雰囲気につつまれ、誰もが、何も見なかったし聞かなかったことにしようと努める。

 指導者にとって必要不可欠な資質である洞察力も決断力も責任感も持たない幼稚な人間が、権力の中枢に紛れ込んでいた。権力の中枢どころかいまやトップである。驚くべきことに、今まで周囲の人間は、誰もそのことに気づかなかったらしい。今ごろ気づいて呆然としているのかも知れない。

 毎日まいにち、見るにたえない醜態を目の前で繰り広げられて、私はいたたまれない気持ちだ。見ないふりをしていようか?しかし、ことは日本の進路と私たちの生活に関わる。美人の尻餅どころの騒ぎではない。


                             (May 2010)

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