メタセコイアの木

 大学の私の部屋の窓の前に、一本のメタセコイア(あけぼのすぎ)の木が枝を広げている。私の部屋は建物の3階にあるのだが、メタセコイアの木は4階の窓をはるかに越えて上まで伸びている。秋になるとメタセコイアの木は黄落し、初夏にはまた瑞々しい若葉をまとう。

 この木の枝にはよく雀や雉鳩やその他の季節の小鳥たちがやってくる。窓の中から人間に観察されているとも知らずに、鳥たちはのんびりと枝に休んでいる。鳩が木の枝にうずくまり、うつらうつらと居眠り(?)しているのが見えたりする。

 11年前に、私が現在の大学に赴任してこの部屋の住人になった時、メタセコイアの木はまだ小さくて、そのてっぺんは、ちょうど椅子に座った目の高さの位置にあった。それを覚えているのにはわけがある。その年の夏の台風で、木の先端が風に折れてしまったのである。すくすくと伸びてきた若木の先30センチほどが無惨に折れて、垂れ下がっていた。文字どおりの挫折である。

 だが気がつくと、いつのまにか折れた部分からわき芽が出て太枝になり、メタセコイアの木はどんどん大きくなっていった。成長するにつれて、枝分かれした跡も太くなった。11年間で樹高は6、7メートルも高くなったのに、その傷跡は今も目の高さにあって変わらない。机に向かって外を眺めるとそれが見える。すっきりした樹形は乱れてしまったが、メタセコイアの木は、そんなことにはお構い無しに大きくなっていく。今では私の部屋の大窓一面を緑の枝で覆うほどに成長した。

 この話から何か教訓を引き出そうというわけではない。ただ、私は夏の日に、部屋の中を緑色に染めあげるほどに葉を茂らせた、幹の曲がったメタセコイアの木が気にいっている。

                               (Sept. 2006)

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