東京駅丸の内口

 東京駅丸の内口周辺の整備が終わり、駅前広場が綺麗になったというので、この12月24日の夕方に見物がてら出かけた。まだイルミネーション点灯までに時間があったので、駅前のオアゾにある丸善に寄った。以前は日本橋の丸善をよく使っていたが、最近は専ら駅のすぐ前にある丸の内本店の方を利用している。

 オアゾ入口ロビーのガラス窓から見あげる東京駅北口ドームは迫力がある。丸善店内をブラブラ歩き、ダフネ・デュ・モーリアの長編を文庫本で一冊買った。これは正月休みの楽しみ。

 外に出るともうすっかり暗くなっており、東京駅の赤レンガ駅舎には照明が当てられている。これは間違いなく日本中のすべての鉄道駅の中で群を抜いて美しい駅舎だ。アムステルダム中央駅をモデルに建てられたということだが、御本尊のアムステルダム駅の方は周辺が雑然としていた記憶がある。

    

      東京駅丸の内北口                  アムステルダム中央駅

 先ほどに比べるとかなり人出が多くなっている。若い男女のカップルが多い。そういえば今夜はクリスマスイブか。

 警察官と、そろいのジャンパーを着た警備員らしき人々が大勢立っていて、ハンドマイクやメガホンで交通整理をしている。それがとてもやかましい。そんなに規制しなくても、皆、整然と歩いているのにと思う。

 日の暮れ落ちた行幸通りを取り囲むように、窓に明かりの灯された丸ビルや新丸ビルなどの高層ビルが立ち並び、中央にはイルミネーションに照らされた東京駅の赤レンガ駅舎がある。この風景はいかにも東京であって、大阪のものではない。

 私は丸ビルというのは丸いビル、つまり円筒形のビルなのだと、かなりの年齢まで、多分、大学に入るまで思い込んでいた。ここに来るといつもそれを思い出して苦笑する。皆さん、丸ビルは丸くないんですよ。

 流れに乗って歩き、Kitteビルに入る。ここは元の東京中央郵便局で、中庭のある直角三角形という変わった構造をしている。吹き抜けの広場に飾られたクリスマス・ツリーを模した大きな飾りを眺める。ここも若いカップルで一杯だ。屋上から東京駅が間近に見られるが、今日は混んでいそうなので敬遠。


 もう一度、外へ出ると何だか騒然としている。あちらでもこちらでも拡声器の声が叫びたてている。別に何かがあったわけではなくて、交通整理の声だ。そもそも警察官と警備員の数がやたらと多い。それらが
「横断歩道では左側に並んでください」
「矢印に従って歩いてください」
などとてんでにわめいている。その声が周囲のビルに反射され、盆地のようになっているこの広場に鳴り響いているのだ。

 たぶん、警視庁の交通課(?)では、クリスマスイブの丸の内の人出が、ハローウインの渋谷並みになると予測して張り切ってしまったのだろう。それで大動員をかけ、きっちりシミュレーションをやって、その通りに人の流れをコントロールしようとしているようだ。見物人の方は静かに歩いているし、そもそもそんなに混雑していない。日本人は、なんでこんなに規制をかけるのが好きなのか。こんなことならアムステルダム駅前のほうがよほどましだ。

 信号が赤になったので横断歩道の手前で立っていると、横にいた警備員のじいさんがメガホンで
「信号が青になってから渡りましょう」
と叫び始めた。思わず顔をにらんで
「当り前だろう」
と言ってしまった。

 近頃、私は年のせいか、こらえ性がなくなり怒りっぽくなっているようだ。

 警備員はそっぽを向いて黙りこんでしまった。じいさん、悪かったな。



                                        (Dec. 2017)

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