2014年暮れ 旧友再会

 

11月21日(金)

 夜、北千住で古くからの友人のKさんと会った。Kさんは退職後、関西で悠々自適の生活をしているが、今回は車を運転してフェリーで北海道の旧宅まで行き、その帰途に東京近郊のご家族の家にしばらく滞在して東京見物をしているとのことである。
 
 北千住を待ち合わせの場所に選んだのは、私の家とKさんの滞在先の両方から近いためである。私は北千住の町を、ほとんど知らない。今回、手ごろな飲み屋を探しがてら二人で駅前を歩いてみて、その繁盛ぶりに驚いた。大都会だ。
 
「北は北千住から南は南千住まで、全国津々浦々に鳴り響いた・・・」
という昔のギャグを言ってみたが、Kさんにはその可笑しさが通じないようだった。昭和三十年代ごろのうらぶれた下町千住のイメージを知らない人には無理もないかも知れない。
 
 千住は江戸の東北端にあって、日光街道の宿場町だった。文物地誌に興味のあるKさんは待ち合わせ時間の前に北千住駅周辺を探索し、大いに気に入ったようだ。街角の地図を見て微妙な曲がり具合の道路を
「日光街道の名残でしょう」
と断定した。ブラタモリみたいだ。

 結局、某有名チェーン店に入って、その夜は二人でよく飲んだ。

 

12月2日(火) 

 知人の女性からジャズピアニスト山下洋輔と八代亜紀のジョイントコンサートの切符2枚をいただいた。会場は池袋駅西口の芸術劇場。久しぶりにカミさんと待ち合わせて、どこかで食事をしてから聞きにいく約束をした。

  ところが田園都市線で自分の乗った電車に人身事故があり、一時間も遅れてしまった。駅でカミさんと合流して会場に駆け込む。
すでに最初の曲が始まっていたが、演奏の音量が上がった頃合いに案内係の人が中に入れてくれた。三階の一番前の席なのでよく見える。
 
  金管楽器の輝きに胸が躍る。山下洋輔スペシャルバンドである。サックス5本、トロンボーン4本、トランペット4本それにドラムスとベース、ピアノからなる16人編成のフルバンドだ。迫力がある。曲の合間に山下洋輔氏が、軽妙なトークでバンドメンバーを一人ずつ紹介する。それぞれが自分のバンドやソロで活躍している人たち。ドラムスはニューヨークから駆け付けたそうだ。曲目が進むにつれて乗りに乗ってスイングしてくる。

  いよいよ八代亜紀さんの出番となった。トークのあと、「雨の慕情」、「なみだ恋」、「Fly Me to the Moon」などを聞かせてくれた。歌は良かったが、なにせフルバンドに情け容赦なく吹き鳴らされて声が届かない。この人は大きな会場より親密なナイトクラブの雰囲気に合う歌手だ。これはちょっと残念。

 

12月4日(木)

 3月に大阪府立大学工学研究科で学位を取ったM君が、大手電機メーカーに就職した。職場は千葉県の柏に決まった。そのM君から連絡があったので、また北千住で会うことにした。話す場所も前回と同じ店。

  大阪府大にはドクターコースの院生の自主組織として「異分野融合研究会」がある。私はその設立時からアドバイザーをしていた。この会には会長、副会長、会計係のほかに「幹事長」というポストがある(私が作った)。宴会の幹事をするから幹事長である。会の主要活動目的が、「異なる研究分野の大学院生が異分野との交流を図り、自己発信能力とイノベーション能力を高める」ということなので、幹事長は重要な仕事である。M君は初代の幹事長だったが、研究会として最初の学外合宿を実現するなど、企画力豊かな名幹事長だった。

  そのM君から、現在、事業部でやっている開発研究の話や、大阪府大のその後の近況などを聞けた。M君は生粋の大阪人なので関東の水が合うかどうかと思っていたが、元気にやっているようだ。

 

12月6日(土)

 高校のクラス会の幹事を長年やってくれているK君も名幹事長だ。K君の企画で、「虎の門周辺を散策し新橋で焼き鳥を食う会」があった。参加したのは女性一名を含む六人である。前回の館山探訪とメンバーは重なる。新橋駅烏森口で落ち合い、歩いて愛宕山から虎の門ヒルズまでを往復した。

 
私は愛宕山の有名な曲垣平九郎の石段を上りたかったのだが、K君は年齢を考慮して横のエレベーター利用を強く勧めた。たしかにうっかり足を滑らせたらふもとまで転げ落ちそうな急階段である。山頂にあるNHK博物館を見学。それから虎の門ヒルズまで歩いた。周辺は道路が整備されて様子がすっかり変わっている。

  新橋まで戻り、ちょっと変わった焼き鳥店に入る。有名店らしく店の前に大勢並んでいる。私らは予約組。たしかに料理はうまい。ジャズのピアノとボーカルの演奏があった。

  その後、六人で夜の銀座を散策。周囲からは中国語ばかりが聞こえる。田中貴金属店に入り、ニュースにもなっていたプラチナ製六億円のカレンダーを見る。一人ではとてもこの店に入る勇気は出ないだろうが、何しろ総勢六人で少し酔っているから平気なものだ。

  それにしてもこれらのコースを如才なくこなしたK君はやはり名幹事である。

 

12月12日(金)

 神戸大学で「光物性研究会」があったので、大阪府立大学訪問と合わせて2泊で出かけた。
 
  神戸大学はいつ来ても凄い立地条件だと思う。たしかに神戸市が一望できる眺めは素晴らしいが、ほとんど崖にしがみついて建っているような大学だ(神戸大の人ごめんなさい)。
 
  今回のチュートリアル講演はもうすぐ東京大学物性研究所を退官するSさんの話。ご自分の過去25年間を振り返り、研究を総括する講演だった。25年というのは物性研で研究室を立ち上げてから今日までの年月だが、これがちょうどチタンサファイアレーザーの技術革新と重なっている。「私は幸運でした」とSさんは言った。
 
  このチュートリアル講演は名誉ある講演で、実は私もやらされたことがある。しかし、例のとおり時間の配分を間違えてひどいパフォーマンスになってしまった。結局、私は講演下手で終わってしまいそうだ。Sさんの話は、内容もパフォーマンスも素晴らしい。

 

12月16日(火)

 この日は、私が世話になっている応セラ研の研究室の忘年会があった。会場は町田の居酒屋。幹事役のO君が、インターネットで探した店だが、これがあなた、なかなか何とも言えないお店でしたね。大体、壁に穴が開いていてスースー冷たい風が入ってきますよ。カバンで塞ぎましたが。後で食べログのクチコミを見たら評点1点台というのが並んでました。しかし、まあ楽しい、かつ記憶に残る忘年会でした。O君、ありがとうよ。

  かくして今年も暮れてゆく。



                                        (Dec. 2014)

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