第一発見者
第一発見者? それなら第二発見者や第三発見者もあるのか?「死体の第二発見者Sさんは語る」・・・んなわけねーだろ。
このように、それを耳にするたびに微妙に神経にさわる言葉がある。品が無いとか、使い方を間違っているというのも、もちろん多いが、ここでは単に意味論的におかしいんじゃないかと思う例をあげる。断っておくが、以下に述べることは政治的な意図を含むものではなくて、純粋に国語の問題としての個人的感想である。
- 反核
ここで核とは原子核の核である。それはよろしい。しかし、私には「反核運動」はできない。なぜなら、私の身体も貴方の身体も無数の原子核から成り立っており、原子核に反対することはできないから。「反核」というのは正確にいうと「核兵器反対」という意味だろう。だから、正確に「反核兵器」と言えばよいのだ。英語でanti
nuclear と言ったって意味が通じない。ちゃんとanti nuclear weaponsと言ってる。
一部の人が使う反核という言葉に「原子力発電にも当然反対でしょう」という政治的含意を感じることがある。核反応エネルギーの兵器への応用と平和利用は、一応、分けて議論するべき問題だと思うが、それがなし崩しに一体化されてしまう。
言葉を省略化してスローガン化することで、陰に政治的メッセージを込めることができる。「在日」などという言葉も同様だ。私は、こういった言葉を振り回す人を信用しない。
- 和解
公害訴訟の原告と被告の会社側のあいだで和解が成立した、というニュースを聞くたびに違和感を覚える。心の行き違いから、長い間、反目しあっていた父と子が涙を流しあって和解した、というのなら分かる。和解とはそういうものだ。しかし公害のために一生を台なしにされた人や、寿命まで縮められた人の遺族が会社側と「和解」できる筈がない。
この場合の「和解」とは金銭的妥協のことだろう。法律用語なのかも知れない。もしそうなら、これはとても悪い法律用語だと思う。
- 離島
日本語(漢語)で離島(りとう)とは、本来は「離れ島」ではなくて「島を離れる」ことである。「離陸」は「離れた陸地」ではなくて「飛行機が陸を離れること」、「離日」は「離れた日本」ではなくて「日本を離れること」。「離婚」は「離れた結婚(単身赴任)」ではなくて「結婚状態から離れること」。ついでに言うと「遠島」は「遠い島」でなくて「島流し」。しかし、ある時期から離れ島のことを離島と表現するようになった。「離れ島問題対策協議会」では村役場の会議みたいだからかも知れない。
- 半導体摩擦
「半導体産業」とか「日米半導体摩擦」とかいう言葉がマスコミに登場した時も、軽い違和感を覚えた。この場合「半導体」とはSiウエーファおよびそれを用いたデバイスのことである。半導体というのは、ある種の輸送現象をしめす一群の結晶を指す専門用語で、Siばかりを意味するわけじゃない。私の感じた違和感はうまく説明できないが、「日米絶縁体摩擦」という言葉のおかしさを思い浮かべて頂けば分かるかもしれない。
しかし、今では何の抵抗も感じなくなってしまった。習慣は恐ろしい。
- バラバラ殺人事件
この言葉は、今ではマスコミで使われることは、ほとんど無くなってしまったが、かっては新聞の見出しに盛んに登場していた。「荒川バラバラ殺人事件」なんてのがありましたな、古いけれど。
人をバラバラにして殺したのなら、物凄く残虐な事件だが(「大切な頭を無くしてしまったので、介抱の甲斐もなくダミット氏は間もなく息を引き取った」(E.
A. ポー「悪魔に首を賭けるな」より)、もちろんそうじゃなくて、殺してから死体をバラバラにしたのだ。それなら「殺人バラバラ事件」と呼ぶべきではなかろうか、と考えていた私は変な少年だったのだろうか?
日本語は正字法さえ確立していない不定形で繊細な言語だ。だから、その扱いにはもう少し細やかな神経を働かせた方がいいんぢゃないかと、おじさんは思うのであった。
(Oct.
2006)
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