2018年8月から9月

どういうめぐりあわせか、今年の8月から9月にかけて猛烈に忙しく、バタバタ走り回っていた。忘れないうちに記録しておこう。

 8月のはじめに、母親に貧血の症状が出て、赤羽の病院に検査入院して調べてもらった。その結果、内臓に異変が見つかった。なにしろもうすぐ94歳という高齢なので、どうするか少し迷ったが思い切って外科手術に踏み切った。その理由はいくつかあるが、ほかには病気を抱えておらず年齢のわりには体力気力があること、主治医(病院長)の先生が手術に積極的であることの二つが大きい。聞くところでは90歳を越えた高齢者の開腹手術は、今ではめずらしくはないそうだ。自分の若い頃の経験から、よい外科医の条件は、腕に自信があって決断が速いということだろうと思う。

 8月28日に再入院、翌日の手術は無事終えたが、ここから綱渡りのようなスケジュールが始まった。

 

 9月2日から9月8日まで、オランダのKerkrade(ケルクラーデ)で行われた国際会議に出席した。ケルクラーデはオランダ南東部の小さな町で、ドイツとの国境に接している。国境といってもなにも無く、道路の脇に立札が立っているだけだ。

 会議が行われたのはAbbey Rolduc という大きな修道院である。敷地内にはいくつもの建物があり、その一部がホテルになっていて参加者の多くがそこに泊まり込んで会議が行われた。日本からの、というより東洋からの参加者は私とTさんの二人だけである。私はポスターで超高速干渉分光の研究を発表。

            

      修道院の中心にあるチャペル          渡り廊下

 

      

          門                          ブドウ畑

 

 修道院の中を、あちこち歩き回った。修道院といっても広い領地に囲まれていて、一部に菜園やブドウ畑まである。教会の中ではミサをやっており、ときおりパイプオルガンの演奏が聞ける。日本にもこういう施設があるとよいのだが、無理だろうな。

 会議のあいだ中、オランダは穏やかな天気が続いていたが、日本は台風に襲われて大変なことになっていた。帰国する日になってTさんの帰るはずの関西空港が閉鎖され、Tさんは中部空港に飛ばされることになった。例のT-K効果(Tさんと私が一緒に国外出張すると何か不具合が起きる)がまた発動されてしまった。

 

 帰国した翌日から9月12日まで、京田辺の同志社大学で行われた物理学会に出席した。私はある数学的な問題についてポスター発表。学会では最近、若い元気のよい研究者が増えたような気がする。
宿は奈良三条通にあるホテルにとった。ついこのあいだ国際会議EXCONのときにも利用したホテルだ。山梨大、大阪府大、東大の研究グループの飲み会に誘われてまたTさんと飲んだ。

 さて、この間、母親には入院していてもらっていたが、9月13日に無事退院できた。思っていたより体調もよい。主治医の先生は「あと2回はオリンピックが見られます」と言っている。そうすると百歳だな。この病院は赤羽一番街のまん真ん中にあって、いろいろな意味で雰囲気がよい。Webには、急患で担ぎ込まれる患者には急性アルコール中毒が多い、とも書いてあったがネタだろう。

 

 9月16日の日曜日には、先日亡くなった弟の納骨式で八王子まで行った。弟の妻が車の手配をしてくれたので、皆と一緒に往復したのである。

 その翌日の9月17日から9月20日まで、国際会議で室蘭工業大学へ行った。室蘭は初めての訪問である。直前の地震で大きな被害のあった厚真町からもそう遠くはない。どうも最近の日本はおかしくなっていると私も感じる。

 国際会議と言っても、実際は外国人の出席者はほんのわずかだ。それでも講演はすべて英語である。会議のテーマは「光渦」であるが、私は国外の若い人とやっているスピン渦の話をさせてもらった。講演のあと、出席していた研究者のひとりから、自分たちも以前に同じようなことをしている、とコメントをもらった。あとからメール添付で頂いた論文を見ると、たしかに何だか似ている。直撃弾に当たったかと、一瞬あわてた。帰宅してから落ち着いて読んでみると設定が違う。この頃、共同研究に参加してもらっていたIさんに相談すると、確かに違うとおっしゃるので、少し安心した。しかし直撃弾ではなくても至近弾ではあったようだ。早く仕事をまとめないといけない。

 室蘭の街は気に入った。室蘭市は、ささやかな繁華街や大学がある「東室蘭」と住宅街と市役所などのある「室蘭」とに分かれていて、間に夜景で有名な工場地帯がある。東京に帰る日には電車で室蘭駅まで行き、重いキャリーバッグをゴロゴロ引きずって、はるばる地球岬まで徒歩で登った。白い灯台があり、室蘭の市街や遠く北海道の山並みが一望できる。私は眼下に広がる噴火湾のきらめきを眺めながらほっと一息ついた。


                                      (Oct. 2018)

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