ケータイ死

 人間、必ずしも畳の上(今は病院のベッドか?)で死ねるとは限らない。不慮の事故死ということもある。

 不慮の事故も時代を反映する。昔は馬に蹴られて死ぬということも多かっただろう。現に私が子供の頃は、荷車を引いた馬がけっこう往来していて(本当ですよ)、馬の後ろに回ると危ないと注意された記憶がある。現代では馬に蹴られて死ぬことは無くなったかわりに、車にはねられて死ぬ。

  昔は屋根を直していて落ちて死ぬ人もいた。
「屋根から落ちてにぎやかに死ぬ」
という付け句が武玉川(江戸時代の付け句集)にある。落ちた人の周りに集まって、大騒ぎしている図だろう。
井戸に落ちて死ぬ、ということも現代の日本ではほとんど無くなったが、昔は多かっただろう。

  現代の新しい事故死の一つに「ケータイ死」がある。これを広辞苑に付け加えることを提案したい。

 ケータイ死:携帯電話をいじりながら死ぬこと。

○JR鶴見駅で,携帯電話を操作しながらホームを歩いていた男性が誤って転落。普通電車にはねられ死亡。(2009年3月)

○大阪市淀川区西中島3丁目の阪急京都線の踏切で、近くに住む女子高生が携帯電話で話しながら遮断機をくぐって走り抜けようとし、下り回送電車にはねられ死亡。(2009年1月)

○大阪高槻市のJR高槻駅で線路に降りた男性が電車にはねられ死亡。線路には男性のものと見られる携帯電話が落ちていた。
警察は、男性が携帯電話を拾おうと線路に降り、電車にはねられたものと見ている。(2008年6月)

○著名な俳優の子息で本人も俳優として活躍を始めていたS氏(当時31歳)が、世田谷区北沢の小田急線踏切で上り電車にはねられ死亡。降りていた遮断機を乗り越えて線路に入った。携帯電話で話をしていたという。(2001年10月)

○埼玉県越谷市のJR南越谷駅ホームで携帯電話で会話していた若い男性が、気づかぬうちにホームの端に寄っていった。話がはずみ、思わず受話器の向こうの相手におじぎした瞬間、東京発東所沢行き普通電車が約40キロの速度で進入。男性は頭をぶつけ、ホームに倒れ込んだ。右目の上を数センチ切る軽傷ですんだが、救急車で病院に運び込まれた。(2000年6月 これは喜劇だ)

 ちょっと検索しただけで続々と出てくる。人の死を笑うわけでは全くないが、あまりに馬鹿馬鹿しい死に方じゃありませんか?

 混雑した駅の構内で携帯電話を操作しながら、のろのろ歩いている奴がいる。電車の出入り口をふさいで携帯メールに夢中になってる奴がいる。こんなことはもう日本では普通の光景になってしまった。麻薬中毒の域に達している。それも命がけだ。

 やはりケータイの遺伝子はあったのだ。

目次に戻る

                               (July 2009)