「○○させていただきます」はやめよう

 研究結果を発表させていただきます。 
 ご用命を承らせていただきます。
  
 いつからこういう言い方が多用されるようになったのだろう?よく分からないが、少なくとも私はちょっと違和感を覚えるのだから、そんなに昔からではないだろう。とてもへりくだった物言いで、耳に快いと感じる人が多いのだろうか、とくにビジネスの場で若い人たちがよく使っているようだ。

 敬語(尊敬語・謙譲語・丁寧語)には「敬語劣化の法則」のようなものがある。はじめは非常に丁寧な表現だったはずのものが、次第にくだけたものになり、ついには相手を見下したような表現にまで落ちる。「奥様」という言葉は、本来は殿様や大商人の奥方という意味である。明治以後に、一般庶民までが使うようになって劣化した。「おかみさん」も同様。落語の「青菜」では、ご隠居のまねをした植木屋が自分の女房に「これ奥や」と呼びかけるところがおかしい。(奥の間など無い長屋なので、女房は押入れから飛び出してくる。)
 「貴様」「お前」なども字面から見れば、本来は敬語だったはずだが、今、会社でこんなことを上司に言ったら、即、クビだろう。

 敬語は、時代とともに劣化するので、絶えず新しい表現が使われるようになる。今では犬や猫に餌をやるのを、「餌をあげる」というのが普通になった。草花にも「水をあげる」だ。レストランなどでの「・・・でよろしかったでしょうか?」は気持ちの悪い新しい丁寧語だ。「させていただく」もその一つかも知れない。

 日本語は敬語の使い方が難しい。それだけに、きちんとした敬語が使える人は素敵に見える。
 
 余談だが、冬季オリンピックで活躍した女子選手で、なかなかの美人で人気のある人がいる。考え方もしっかりしていて私もファンだった。しかし、彼女がテレビのインタビューに答えて、自分の父親のことで
「お父さんが、お父さんが」
を連発していたのにはがっかりした。この人、もう結婚していて、かなりの年齢のはずである。誰かが教えてあげれば(やれば?)いいのに。

 反対に「ご覧になられる」「おっしゃられる」のような過剰敬語または二重敬語というのがあって間違いとされている。「○○させていただく」も過剰敬語だと思う。

 何年か前の物理学会で、ある研究室の大学院生の発表を聞いていたら
「この式に、この値を代入させていただきますと・・・」
とやっていた。そりゃあんまりだぜ!

「えー、シュレーディンガー方程式を解かせていただきますと・・・」
「サンプルに磁場をかけさせていただきますと、このように・・・」

「○○させていただきます」は、研究の場では使うのやめようね。

 

                                                (Feb. 2011)

 

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