貝殻のフーガ

 

 人はなぜ「繰り返しパターン」に惹かれるのだろう。

 これはDr. Gutchiこと水口毅氏所蔵の「マルオミナエシ(Lioconcha castrensis)」の写真である。表面の模様から「シェルピンスキーのガスケット」を思い出す人もいるだろう。しかし、これは自己相似というよりは自己相同である。日本の文様の網干文にも似ている。

 若い頃持っていた「フーガの技法」のレコードに、曲の初めの部分の楽譜がついていた。同じ基本構造が繰り返される手書きの音符の連なりは視覚的にも美しかった。毎日ながめていれば、少しはましな物理がやれるようになるのではないかと、そのゼロックスコピーを机の前の壁に貼っていた。私はなぜだかその楽譜を思い出した。 

 インターネットで調べるとマルオミナエシは南の海に産し、沖縄の海岸などでも拾えるらしい。その不思議な自己相同のパターンは、人を夢想に誘う。 貝殻のフーガ。


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