明るい病気自慢

 寄る年波には勝てず(いきなりそう来るか)私も身体のパーツのあちこちに不具合が生じるようになった。「偏見的病気シリーズ」でも始めたいくらいだ。いま自分の身体で完全に健康なのは頭脳くらいのものだと思っているが、そう思っているのは自分だけかも知れない。

 友人達と集まって酒を飲むと、よく病気自慢が始まる。病気が自慢になるかという気もするが、結局自慢しているのだ。血液型と病気の話は、仲間はずれになる人がいないというメリットがある。しかし聞いていると、よくもまあ色々な病気があるものだと思う。

 一番多いのは腰痛である。私より若い連中はほとんど腰痛持ちだ。体型がスマートになったからだと彼らは言うが、むしろ子供の頃、畳の生活をしたか椅子の生活をしたかの違いじゃないか。私は今でも畳派だ。畳と椅子では腹筋の鍛えられ方が違う。日本人は畳でなければいかん。

 病気自慢大会では重い病気に罹った人ほど大物扱いされる。K君は若い頃、十二指腸潰瘍胆石で2回も開腹手術を受けた。
「昔はすぐに切ったからね」
「うん、今なら胆石なんか内視鏡でちょいちょいと取れる」
「ちょっと腹切ったところ見せようか?」
「見たくないよ、そんなもの」
「いや、是非見せてやる」
とK君は脱ぎにかかる。既にかなり酔っている。

 私も負けていられない。手近なところで「歯から鼻に抜けた話」をする。この冬、虫歯が痛くなって歯医者に行ったら上の奥歯を抜かれた。メリメリと歯を抜かれたとき、歯茎の骨に穴が開いて、鼻腔まで貫通してしまった。鼻血が止まらず(言っとくが歯を抜いたんだよ)、うがいをすると鼻から水が噴き出すという始末である。
「あなたは歯茎の骨が薄い」
と歯医者は言う。ウオイッ。
 鼻血はいつまでも止まらず、熱が出て偏頭痛が始まった。偏頭痛とは十八歳の頃以来の懐かしの再会である。そのうち、体調が落ちた時に出る持病の痛風発作口唇ヘルペスが始まった。もう散々。

 Cさんが高血圧白内障に関して蘊蓄を傾けていると、S君が負けじと身を乗り出し
「私はエコノミークラス症候群ですねー」
「ププッ」
「お止しなさい。情けないね」
「それが机に向かって仕事してたらなっちゃったんです」
「あんたの椅子はエコノミークラスか?」
S君には、家族ぐるみのアメリカ留学から帰国したその日、日本食が食べられる嬉しさに、食べ過ぎで家族全員お腹をこわし、家族全員入院したという前歴もある。

「ふっ、ふっ、ふっ」
「おや、Yさん、さっきから静かに笑ってますが」
「いや、私の場合は軽い大腸癌でね。もう5年になりますが」
「へ、へー」
と全員ひれ伏して病気自慢に勝負がついた。

 しかし健康は大切だ。病気になるとビールが飲めなくなるので困る。

 

                                    (Apr. 2007)

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