イマジネーション

 2010年6月13日夜10時51分(日本時間)、小惑星探査機「はやぶさ」が、7年間の長旅を終えて地球に帰還した。私はインターネットの動画サイトで、大気圏突入の様子をほとんどリアルタイムで見物した。その時間帯NHKでは外国同士のサッカー中継をだらだら流すのみで、この快挙については何も触れなかった。

 満身創痍の帰還という言葉がこれほど相応しい姿はないだろう。プロジェクト・リーダーの川口淳一郎教授もおっしゃっているように、苦難の連続だったが、最後はほとんど「神がかり的」な幸運に恵まれてミッションを達成できたのだ。

 JAXAと関係企業の技術者の不撓不屈の精神にも頭が下がるが、私がとくに強く感じるのは、小惑星「イトカワ」まで行ってサンプルを地球に持ち帰ってくるという計画を立てた責任者の構想力の凄さである。こればかりは、自分がそのような立場にいたとしても、とても出来なかっただろうと思う。

 地球の大気圏に突入する前に、「はやぶさ」はカプセルの切り離しにも成功した。このカプセルには小惑星で集めた砂のサンプルが入っているかも知れない。7年もの長期間、宇宙空間の過酷な環境にさらされ続けて、切り離し装置がなお正しく作動したというのは驚くべきことだ。

 この切り離しで「はやぶさ」の全ての任務は完了したのである。しかし、その後、管制室は「はやぶさ」に、残っている燃料を使って機体の向きを変えるよう指令を送った。搭載されたカメラで地球を撮影させるためだ。

 これは「はやぶさ」に課せられたミッションとは、もはや関係がない。これこそ研究者のイマジネーション、遊び心の発露だろう。「はやぶさ」に、最後のご褒美に地球の姿を見せてやりたかったのかも知れない。

 撮影はほとんど失敗だったが、最後の一枚だけは撮れていた。地上に送られてきた、「はやぶさ」が最後に見た地球はノイズが入り、少しかすれていた。私は深夜のパソコンの画面上でそれを見た。不覚にも涙が溢れた。

 

                                   (June 2010)

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