地下鉄七隈線の謎  

九州大学で開催された春の物理学会に出席するために、久しぶりに福岡へ行った。宿は薬院の近くにとった。博多駅から薬院へ行くには、地下鉄空港線の姪浜行きに乗り天神で七隈線へ「乗り換える」と案内書には書かれている。ところが実際行ってみると、空港線の天神駅から七隈線の天神南駅まで、天神地下街(てんちか)を延々歩かされるのだ。その距離約600メートル。こういうのを普通は「乗り換え」とは呼ばない。


 上の図は博多の地下鉄路線図である。ご覧のように七隈線は、他のいかなる鉄道駅にも接続していない。私はこんな地下鉄を初めて見た。地下鉄の車中でこの不思議な路線図を眺めていたら、一本棒の七隈線が複素平面上の複素関数 のカットに見えてきた。うっかりこの直線を横切ったら別のリーマン面に出てしまったりして・・・。

 九州大学にいる知人と学食で食事をしている時に、「七隈線の不思議」について尋ねてみたら事情が分かった。本来、七隈線はJR博多駅に接続する予定だったのだが、博多駅前で地盤崩落事故が発生し、延伸工事が頓挫してしまったのだそうだ。そういえば2,3年ほど前にそんなニュースがあったことを思い出した。Wikipediaによれば2016年11月26日のことだ(博多駅前道路陥没事故)。「大規模な地盤崩落事故だったにも関わらず、犠牲者が1人も出なかったこと、また復旧工事が発生後わずか1週間で完了したことから、国内外多くのメディアに取り上げられ、注目を浴びた。」と書かれている。

 

 それにしても人口158万人の大都市にしては、福岡市の地下鉄路線の簡素なことよ。ちなみに上に示した東京都の現時点での地下鉄路線図と比較してみて頂きたい。東京の地下鉄路線網のもつれ具合も、少し異常だと思うが。

 七隈線の延伸工事は再開され、2022年には開通の予定だそうだ。世界でも珍しい「どこにも接続していない地下鉄」に乗れるのもあとわずかだ。

 


                                        (March 2019)

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