長嶋家の食卓(祈病気快癒)

 私はむかし、「長嶋家の食卓」というコントを考えたことがある。長嶋さんとは、もちろんあの有名な長嶋さんである。日本では天皇陛下と総理大臣の次ぎぐらいの有名人だ。しかし日本中の人々に、これほど愛されている有名人も珍しい。ジャイアンツはきらいだが長嶋さんは好き、という人も多い。私もそのひとりだ。

 長嶋さんには逸話が多い。満塁ホームランを打ってダイヤモンドを一周し、るんるんスキップを踏みながらホームベースに帰ってきた。監督時代に、走者三塁でアンパイアに代打を告げるとき、バントのジェスチャーをしながら打者の名を言った。などなど、いくらでもある。こういう人を憎むことは誰にもできない。

 長嶋さんは英語が好きだ。「あなたは浪人中?ああ、ウエイブマンですか」「今のは素晴らしいダブルプレーのゲッツーですね」「バッティングは調子の波がウエイブを描きますからね」

 かって、長嶋さんはNHKの解説者だった。長嶋さんが画面に出てくると、雰囲気がぱっと明るくなった。同時にお腹の底から笑いが込み上げてきた。これは明るい笑いだ。長嶋さんが話しはじめると、聞いていて可笑しくてハラハラした。主語と述語がまったく対応してなかった。こういう「話が飛んでいってしまう人」は、サービス精神旺盛で頭の回転が速すぎるのだ。私も同じ傾向があるのでよく分かる。

 しかし、長嶋さんはひたすら真面目だ。長嶋さん本人は案外、ユーモアは解さない人なのではないかと思う。長嶋さんにはテレビタレントの長男と娘さんがいる。この子供さん達も、あまり深刻にものごとを考えるタイプではなさそうだ。

 さて「長嶋家の食卓」であるが、これは長嶋さんを中心に、長嶋家の家族全員が食卓を囲んで会話するのである。皆さん、てんでんバラバラに喋りまくって噛み合わず、話は次第に支離滅裂、とんでもない方向へ行ってしまうのだが、最後に
「そうだよねー」
と全員納得してしまう、という不条理劇である。いわゆるひとつの長嶋語録もちりばめられている。長嶋さんご本人はじめ、実際にご家族の方々で演じて頂きたいコントである。

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