確率って難しい-その2

 最近、翻訳が出た数学者エルデシュの伝記 "My Brain is Open" はよい本である。この中に「モンティホール・ディレンマ」に関する逸話が出ている。モンティホール・ディレンマとは、簡単にいうとつぎのような問題である。

 魔法使いが現れて、あなたの前に3つの箱を並べ、その中から自由に1つの箱を選べという。ただし、どれか1つには宝物が入っているが、他の2つにはがらくたが入っているのである。宝物の入った箱を選べばそれはあなたの物になるが、その確率は3分の1である。さて、あなたがどれか1つの箱を選び、その箱を開けようとすると、魔法使いは「ちょっとまった」と待ったをかけ、残りの2つの箱の一方を開けてみせる。それにはがらくたが入っている。(2つの箱のうち、すくなくともどちらか一方には必ずがらくたが入っているので、これは常に可能である。)そして魔法使いはこういう。
「さあ、今から選択を変えてもいいんだぜ」
問題は、あなたは最初に選んだ箱から、残りのもうひとつの箱の方に選択を変えるべきか否かである。つまり、選択を変えることで、宝物をゲットする確率が上がるだろうか?

 エルデシュは、友人からこの問題を出されて答えを間違えたそうである。それだけでなく、正しい答えを知らされてもすぐには理解できずに怒りだしたという。また、多くの確率論の専門家も間違えたという。ええ、もちろん、私も間違えましたよ。ゆえに私の頭はエルデシュ並みだ(?)。

 ここであなたの答えを言ってみて下さい。はい、間違えましたね。

 まだ開けていない2つの箱のどちらか一方には、かならず宝物が入っているということが分かっただけで、その確率はそれぞれ2分の1だから、選択を変えようが変えまいが同じだ、というのがエルディシュの答え(そして私の答え)である。しかし、正解は「もう一方の箱に選びなおすことで、宝物を得る確率は2倍になる」のである。

 魔法使いががらくた入りの箱を開ける前も開けたあとも、あなたが選んだ箱に宝物が入っている確率は3分の1にかわりはない。したがって、残りの箱に宝物が入っている確率は3分の2に跳ね上がるのである。

 と書いていても、何だか不思議な気がする。わたし、3日ほど考えました。混乱の理由は、魔法使いががらくた入りの箱を開けてみせたのが、あなたが最初に箱を選ぶより前であった時の状況と混同することによるらしい。この場合は、もちろん、残りのどちらの箱を選んでも、当る確率は2分の1である。しかし、最初にあなたが一つの箱を選んだ瞬間に、残りの二つの箱のどちらかに宝物が入っている確率は3分の2になるのである。そこで魔法使いはがらくた入りの箱を開けて見せることによって、重要な情報をあなたに与えてくれたのである。

 さて、ここから先はビールを飲みながら私が考えたことである。

 それでは、何も知らない二人の人間が、3つの箱からそれぞれ一つを選ぶ状況ではどうなるだろうか?AさんとBさんが、それぞれ違う箱を選んだとする。そして、魔法使いが残りの箱を開けてみたら、中にはがらくたが入っていたとする。モンティホール問題の正解を知っていたAさんは、「初めに私が選ばなかった二つの箱のどちらかに宝物が入っている確率は3分の2だったのだから、Bさんの選んだ箱に宝物が入っている確率は3分の2だ」と考えるだろう。Bさんも同様。従ってAさんもBさんも、お互いの箱を取り替えっこしようと申し出ることになる。ありゃりゃ?

 これは「二つの封筒のディレンマ」というやつに似ている。AさんとBさんに、それぞれお札入りの封筒が渡され、「一方の封筒には他方の封筒の倍の金額が入っている。ただし、どちらが倍であるかは分からない」と知らされる。するとAさんもBさんも、得られるお金の期待値を計算して封筒の取り替えっこを申し出る、というのである。このディレンマはどう解決されるかというと・・・。うーん、またビールを飲んで考えねば。

 確率ってやはり難しい。

目次に戻る